九州大工塾2025 第三回(2025年5月10-11日) レポート

九州大工塾2025 第三回(2025年5月10-11日) レポート

 

木組みの家が好きで、自分で実践できるようになるという目標のため、九州大工塾2025に通しで参加している鹿児島の桑原構造設計の桑原です。

第一回目は、鹿児島に丹呉明恭氏を招き杢人の会の目指すものの解説、それから山と林業、シロアリについての講義と渡り顎構法の家の現場見学でした。第二回目からは、場所を北九州へと移し、山辺豊彦氏を招き、木構造の基本を座学で学びました。

そして5月10、11日に第三回、九州職業能力開発大学校を舞台にいざ構造実験です。九州山口の各地からこれまでで最多の20名を超える参加者が集まりました。貴重な実大実験ということで皆さんの期待の高さが伺えます。私も初めて目の当たりにするので、とても楽しみにしていました。

一日目は、仕口・継手の引張試験です。

 

渡り腮の引張試験 人形束vs通しホゾ

渡り顎で組まれた上梁と下梁を接合する“人形束”と“通しホゾ”の比較です。人形束は渡り顎構法の標準仕様ですが加工に手間を要するという意見もあり、通しホゾは加工しやすい分ホゾ幅方向の肉が減るので耐力がどれほど出るのかが注目でした。

結果は意外にも最大耐力はほぼ同等でした。特性として人形束は粘り強く耐え最後まで破断すること無く、一方、通しホゾの方はブチっと切れるような壊れ方でしたが、約2tの耐力が出たので実際に使えるものとしての丹呉氏、山辺氏のお墨付きを頂きました。ホゾ幅と込栓サイズを調整することで粘り強さ増す余地はありそうです。試験体を製作した大工も実際に通しホゾを使用しているとのことで安堵の表情を浮かべていました。

 

 

 

 

柱頭脚(長ホゾ込栓打ち)の引張試験 天然乾燥vs人工乾燥

天然乾燥とは自然のままにゆっくり乾かすことで、人工乾燥は窯に入れて短期間で強制乾燥させることです。これまでの実験で天然乾燥は粘り強く、人工乾燥は脆いという傾向が確認されているようですが今回はいかに。

まず、実験の前に色艶と香りは天乾に軍配です。普段天乾材を使い慣れている方からすると人乾材は焦げたような臭いが受け付けないようです。

実験の結果は、、、耐力はほぼ同等でした(天然乾燥材の方が高め)。壊れ方は①込栓が折れる②ホゾ頭が飛ぶ③土台の割裂の3パターンあり、①が修繕しやすいので理想的とされています。今回は、人工乾燥材が②かと思いきや①の壊れ方で、天然乾燥材が①③となりました。期待していた結果と違うのでよくよく見てみると、人工乾燥材が水を含み重たく、防腐剤を注入されて含水率が高い材なのでは?とのこと。土台の樹種も天然乾燥:桧、人工乾燥:杉と条件が揃っていませんでした。今回二つを比較するは難しいですが、告示で示されている引張耐力より数倍高い数値が出たのは確かです。(ホゾ、込栓の寸法・位置は大工塾仕様)

 

 

 

様々な継手の引張試験

合計6つの異なる試験体のうち5つが実験できました。

金輪継ぎ(最大耐力56kN、最大変位量44mm)

 

追っ掛け大栓継ぎ(最大耐力63kN、最大変位量44mm)

 

原スペシャル(最大耐力35kN、最大変位量16mm)

 

今田継手(最大耐力36kN、最大変位量16mm)

 

ヤトイ鎌:富澤スペシャル(最大耐力47kN、最大変位量26mm)

 

浦田スペシャル(次回)

 

昔ながらの金輪、追っ掛け大栓は耐力が高く、現代まで残っただけのことはあります。

盛り上がったのは太いダボを駆使した、簔原スペシャルと今田継手です。金輪、追っ掛け大栓は耐力はありますが、仕口自体の破壊となるため修復する際は横架材ごと入れ替える必要があります。一方、最大耐力劣りますが、簔原スペシャルはダボが先行破壊するためダボを交換するだけで済みます。今田継手に関して実験後に分解してもダボすら何事も無かったかのような状態です。鉛直、横方向からの加力に対しての強さは検証が必要ですが、引張に対しては良い壊れ方だったので、時代はダボ!!と一盛り上がりを見せてくれました。

 

2日目は、壁の加力試験です。土台を固定して上部をゆっくり引っ張る、押すを繰り返しだんだんと変形角を大きくしていきます。

ハイベストウッド(大壁:壁倍率4倍仕様)
大工塾でこれまで実験した面材の中でも粘り強さにおいて秀でた材です。

面材が少し浮いてくる箇所がありましたが、最後まで面材自体の大きな損傷は見られませんでした。しかし、軸組部に損傷が見られました。土台のアンカーボルト座金のめり込みと柱脚の引き抜きです。高倍率の耐力壁は地震力に対して硬く堪えるが、その分軸組にも大きな負担がかかることを目の当たりにしました。

 

 

 

貫四段

貫は27×120で大工塾仕様ですが、通し楔で貫下端が柱に咬むように仕掛けが異なる点です。

結果は、壁倍率に換算すると1.4倍相当でした。これまで大工塾で行ってきた貫四段が0.2~0.5倍相当(細部はそれぞれ異なる)という値なので貫仕様の中では高倍率と位置付けられます。山辺氏の見解では貫と柱が咬むようになっているのが要因ということですが、テーパーを切ったため滑り、めり込み力を活かし切れていないということなので、まだ耐力が上がる余地はありそうです。また、咬んだ部分から貫に割れが走ったところは気になるポイントです。軸組の損傷は見られず、変形することで力を逃がしていると言えると思います。

 

 

 

貫四段+ハイベストウッド(真壁)

予定にはありませんでしたが、丹呉氏の発案で先程の二つの試験体を合体させて即席試験体があっという間に完成しました。大工塾ならではです。

壁倍率換算したところ4倍出ました。値だけみると大壁仕様と同等です。最後は面材が波打つように変形し、圧縮がかかる角部に割れが生じました。大壁仕様に比べて一見大破したように見えましたが、面材が変形した分軸組への損傷はほとんど見られませんでした。

 

 

 

貫四段(転び柱)

先の貫四段と基本は同じで、柱頭が4寸内側へ転んだ試験体です。

結果は、貫四段のみに比べて少し高い耐力が確認されました。転んだ柱が突っ張ることが要因と思われます。

 

 

実験を終えて

一般的な木造の構造検討は、中地震(震度5強)で損傷しない(構造躯体に大規模な工事を伴う修復が必要となる著しい損傷が生じない)と確認するところまでです。大地震(震度6強以上)でに対して倒壊しないという検討まではしません。だからといって無責任で良いという訳ではありません。設計者、施工者が木や組み方の特性を理解し、適材適所でバランスよく扱うことで、住まいという資産と人命を守ることにつながると考えます。今回の実験で各仕口、継手の耐力、特性、壊れ方、金物との相性など自分の目で見れたことは建築に携わる者としての財産だと思います。

また、実験により個々の試験体の数値がはじき出されたこと以上に、人が寄り集まって意見交換することに大きな意味があると感じました。各々が予想と結果を踏まえて、もっとこうしたら良くなるだろうと議論し、各現場へ反映していくことが木造技術・文化の発展へとつながると信じます。

次回は、溢れてしまった渡り腮と蟻掛けの曲げ試験と継手の引張試験、そして山辺氏による講評があります。九州大工塾2025に山辺氏が来られるのも次回6月で最後となります。単発での参加もできますので、木造に興味ある大工、設計士は奮ってご参加ください。

 

 

 

 

((有)桑原構造設計 桑原建大)