九州大工塾 2025 第一回(1日目) 1月11日 南九州市川辺町 貸しスペース「月」にて
九州大工塾 2025 第一回(1日目) 1月11日 南九州市川辺町 貸しスペース「月」にて
「九州大工塾 2025」の第一回目が鹿児島県の南九州市川辺町で開催された。前日より場所によっては雪に見舞われた鹿児島。当日も寒い一日で、コンクリートの土間とガラスからの冷気が強烈な中行われた。
軽い自己紹介の後、講師としてお迎えしている丹呉明恭建築設計事務所の丹呉氏による講義が「『地球温暖化』を考える」と題して行われた。
その講義の中でまず驚いたのは、温暖化への対応の歴史が1988年に始まっているという事だ。NASAゴダード宇宙研究所所長のジェームズ・ハンセン氏が「紛れもない温暖化傾向が人間活動と結びついていることに99%の自信を持っている」と米上院公聴会で証言をされたのが1988年。37年前に既に科学的根拠を持って温暖化危機を提言されていたのだ。時を経て1997年にCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で「京都議定書」採択、2015年にCOP21で「パリ協定」採択。「京都議定書」では先進国のみが対象とされていた温室効果ガスの削減目標が「パリ協定」では先進国に限らず加盟国全てになったことなど、細部を見れば個人的には色々と気になる点もあるが、世界的に温暖化が進んでいる現状に危機を感じていることが分かる。
温暖化の現状は、世界の一次エネルギー消費量と温室効果ガスの排出量は増加を続けているとの説明があった。削減への取り組みはなされているものの、その方向性は正しいのかと問いただされる現状である。
丹呉氏は温暖化対策の二つの方向として下記の2つを挙げた。
- 現在の生活を見直して、地球の維持可能な範囲で経済を回す
- 現在の生活は変えず、さらに経済成長を維持する
どう考えても②はさらに地球温暖化を進めてしまう方向であり、回避したい方向である。大工塾が目指すものはもちろん①である。「地球は人間の生存の基盤(大地)であり、その上でしか生活することが出来ない。」という言葉を聞いた時に、自宅の地鎮祭の時に神主さんに「この土地は神様からの借り物です。最期は綺麗にお返しするつもりで、大切にお使い下さい」と言われたことを思い出した。
最後にレイチェル・カーソン著『沈黙の春』の一言で締めくくられた。
『私たちは、いまや分かれ道にいる。どちらの道を選ぶべきか、いまさら迷うまでもない。長いあいだ旅をしてきた道は、すばらしい高速道路で、すごいスピードに酔うこともできるが、私たちはだまされているのだ。その行きつく先は、禍であり破滅だ。
もう一つの道は、あまり《人も行かない》が、この分かれ道を行くときにこそ、私たちの住んでいるこの地球の安全を守れる、最後の、唯一のチャンスがあるといえよう。』
余談であるが、講義の中で紹介された斎藤幸平著の『人新生(ひとしんせい)の「資本論」』。『SDGsは「大衆のアヘン」である』と始められるこの本には、経済成長と環境問題との構図が描かれたものでもあるのかもしれない。時間を見つけてぜひ一読したいと思った。
次に鹿児島市の廣瀬産業㈱の廣瀬氏による講義が「シロアリ被害と対策」と題して行われた。
シロアリ被害の実例写真と実際に持ち込まれたシロアリの巣を用いての講義であった。
鹿児島県にはイエシロアリとヤマトシロアリが家屋に被害を与えるシロアリとして生息している。シロアリの活動時期は夏場(4~10月)ということであったが、だんだんと夏が長くなっているような昨今ではもっと活動時期が延びていくのではないかと個人的には不安になりつつ講義を受けた。
シロアリの生息には水が必要であるが、イエシロアリに関しては水も自分で運ぶ性質があるらしい。水気が無ければ大丈夫という私の認識は間違っていたようである。ただ、僅かな風でも嫌うようなので、風通しは重要ということになる。
ヤマトシロアリは乾燥に非常に弱いそうだ。被害状況写真を見ると、木材と土が接している土壌埋設ねこ土台や、土壁部分と土が接している部分等、通気が不十分で乾燥しきらない場所である。建築の際にシロアリの性質を十分に理解したうえでの対策が必要だ。そして被害を受けてしまった時の対応もしかりである。
持ち込まれたクリアケースに入った実際のシロアリの巣は、私にとってはあまり気持ちよく見られるものではなかったが、シロアリの生態を知るには貴重なものである。廣瀬氏のご厚意で今回の講義のDVDもいただいた。またネットにも様々な動画がアップされているようである。少し気持ちを落ち着けて肝を据えた状態で観てみようと思った。
(川上 陽子)