江藤家住宅 災害復旧事業研修レポート

2022(令和4)年11月13日(日) 九州杢人の会

2016年(平成28年)熊本地震で被災し、同年より7年に及ぶ国指定重要文化財江藤家住宅(熊本県菊池郡郡大津町陣内、主屋:文政13年〜)に、九州杢人の会の研修で行って参りました。

池上会長の元で大工修行をされた武田学さんが現場監理に携わっている縁で2017年(平成29年)10月28日にも工事途中で見学させていただいており、5年ぶり2回目の研修となりました。

約80m四方の敷地中央に南面して主屋、南西隅に長屋門と馬屋があり、完工した主屋と工事途中の長屋門を中心に、武田さんによる解説付きでの見学となりました。

5年前大きく傾いた主屋(1/8以上の傾き)瓦が落下し、天井も落ちて不気味な雰囲気さえ出ていた江藤家住宅でしたが、見事な復活を遂げていました。

落下した瓦は打音試験をし、選別作業を繰り返して使えるものは再利用しています。また、液剤に浸し、防水処理も施しての施工を行っていました。

瓦は目板瓦という熊本特有の形状で、桟瓦とかぶり目板が別体になっており左官の漆喰塗りでの最終仕上げとなっていました。瓦に80種類の刻印があり、その一つには熊本城御用瓦師と共通の刻印も確認されたとのことです。刻印の種類の多さは作業工程の目印ではないかとの説明でした。下地には杉皮を葺き、その下に現代のゴムアスファルトも利用されていました。現代の建材との融合も随所に見られ、苦悩との葛藤や、守ることを前提とした判断が伺えます。

中の柱は礎石からずれていた個所もあり、建て起こしと石の据え直しがされていました。また、基礎から鉄骨を構造部に回し、大空間の補強としていました。

土壁は竹小舞まで解体して、荒壁土として土練り場に集めて再度練り直し、定期的に練り返して寝かせた物を再利用されていました。

工事途中の長屋門と附小屋は見応えがあり、当会のメンバーは2時間の見学の大半はこちらの棟にはりついていました。2階の合掌には栴檀(センダン)が使われており、工事全体をみても、シロアリ被害は栴檀にはみられなかったようです。栴檀は梁にも多く使われており、その強度を是非、破壊試験で見てみたいと新しいテーマも生まれました。

今回の江藤家住宅研修は、解体、復旧、補強そして補修と色々な工程が見られ、実務に活用できるヒントも沢山確認できた、貴重な経験となりました。

同時に、江藤家と同じく甚大な被害を受けた宮山神社(享保20年〜)も見学しました。こちらも武田学さん監理の建物です。倒壊した基礎石と滑動した駆体、折れた柱、脱落した屋根組と、被災後は再起不能にみえましたが、こちらも見事に再建されていました。

解体から始まり、仮置きでの保存、資金計画、工事、と気の遠くなる工程をふんでの再建です。大工塾に参加した鹿児島の原田さん、長崎の脇さんも工事に携わっており、武田さんの人脈も大いに役立っていました。人のつながりの大切さも伝わる仕事です。

参道の杉林が気持ちよく、江戸期の石碑や灯籠、神木のイチイガシをはじめ、大木の針葉樹に囲まれた境内は凛として、再建の重要性を改めて痛感します。

今回、武田さんから屋根(棟、鬼瓦)の図面を初めて書いた話も聞かせていただきました。水仕舞、意匠と考えて取り組んだことは、自身の大きな財産になったとのことです。

コロナ禍ながら、江藤家住宅の一般見学会開催も難しい中で、お声をかけてくださった武田学さんに感謝申し上げます。一般住宅の大工から国指定重要文化財の現場担当監理と転身を遂げている武田さんから、大工の無限大の可能性も教わりました。(堂薗隆博)